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東京高等裁判所 昭和31年(ラ)854号 決定

抗告人 秋山中一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は、原決定を取り消し更に相当なる決定を求める旨申し立て、その理由として別紙抗告理由書のとおり主張した。

本件抗告理由を要約すると次の三点に帰する。すなわち、

(一)  本件競売申立の基本債権たる金三百三十八万三千五百六十円は既に支払済であるから原競落許可決定は違法である。

(二)  本件競売を申し立てた債権者は今回の競売期日を延期するよう申し述べていたから、競売手続を続行したのは違法である。

(三)  昭和三十年二月二十一日の競売期日において本件の競売物件の最低競売価額は金八十五万六千八百八十円(抗告理由書に金八十五万六千八百円と記載されているのは誤記と認める)と定められたのに、次回の同年七月二十二日の競売期日においては、右価額を低減しないで同一価額を以て最低競売価額と定めたのは違法であつて、原競落許可決定は取り消さるべきである。

当裁判所はこれに対して順次左のとおり判断する。

(一)  抗告人主張の弁済の事実は、これを認めるに足る何等の疏明が存在しないから、抗告人の(一)の主張は採用できない。

(二)  競売申立人たる債権者において、競売期日延期の申出をしたとしても、競売裁判所は必ず競売期日を延期しなければならないものではなく、これを延期すると否とは裁判所の自由な才量に属するのであるのみならず、本件競売手続が現実に実施された競売期日について、競売債権者から抗告人主張のような延期申出がなされたことは、これを認めるに足る何等の疏明資料も存在しないので、抗告人の(二)の主張も採用できない。

(三)  本件記録によると、昭和三十年二月二十一日午前十時の本件競売期日の公告には、本件競売物件の最低競売価額は金八十五万六千八百八十円と定められ、右期日に競売が実施されたところ、競買申出をするものがなかつたので、原裁判所は更に新競売期日を同年七月二十二日午前十時に指定したが、その公告をするに当り最低競売価額を低減することなく、前回と同一価額を以て最低競売価額と定めその旨公告中に掲載したこと、抗告人主張のとおりであることを認めることができる。しかしながら、右新競売期日においても結局競買の申出をするものがなかつたため競落に至らず、その後再三再四にわたつて定められた新競売期日に漸く本件競落を見るに至つたこと記録上明らかであるから、前記のとおり原裁判所が競売価額を低減しなかつたことは、本件競売手続の適否に何等の影響を与えるものでない。しかのみならず、競売期日に許すべき競買価額の申出がないため、競売裁判所が新競売期日を定めるに当つて、最低競売価額を低減することなく、前同一の価額を以て最低競売価額と定めたとして、このことは競売物件の所有者に何等の不利益を与えるものでないから、これを以て競落許可決定に対する適法な抗告事由と認めることはできない。よつて抗告人の(三)の主張も採用することができない。

その他記録を精査しても、原決定を違法ならしめる瑕疵を見出すことはできないので、本件抗告は理由ないものと認め主文のとおり決定する。

(裁判官 浜田潔夫 仁井田秀穂 伊籐顕信)

抗告理由書

本件競売事件に於ける債権額は金参百参拾八万参千五百六拾円也にて申立あれど実際は既に支払済みにて残額は損害金が未解決にて債権者にては今回の競売期日は延期をする様に申述べられていましたが競売なしたる事は不当である。

又本競売は今日迄競売開始以来拾回競売期日があり、その度に評価価額が前回より一割方安くなりいるのに昭和三十年二月二十一日の競売価格が金八拾五万六千八百円也にて、次回同年三十年七月二十二日の競売期日は、一割安くなるべき処同じ前回の価格である点も不法と認め本競落許可決定は取消しを求めます。

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